2022年5月27日金曜日

「ワクワク大陸」オーストラリア、完全回復へ現地は準備着々、日本市場に期待も

 トラベルビジョン発

オーストラリアは日常を取り戻し、旅行観光産業のリカバリーに全力を注いでいる。一時期は「要塞」と表現されるほどの厳しい入国制限を敷いていた同国だが、昨年11月からは大幅に要件を緩和。この5月15日から18日にかけては、旅行商談会「Australian Tourism Exchange(ATE)」を3年ぶりに対面式で開催した。コロナ禍の今後の動向には不確定要素もあるが、そうしたなかで日本市場での観光マーケティングに携わる関係者が現況をどう分析し今後どのように活動していく方針かまとめた。

オーストラリア政府観光局(TA)は日本を含む15ヶ国を重点市場に指定しており、コロナ後も引き続き積極的に活動していく計画。4月には日本市場で13年ぶりとなる大型のキャンペーン「ワクワク大陸、いよいよ再開。」を始動し、新聞広告や屋外広告、デジタル広告を組み合わせて同国の開国と魅力を強くアピールしている。(同キャンペーンの概要や活動方針はこちら

旅行者・座席は来年にも完全回復か

 今回のATE取材に合わせてトラベルビジョンではTAに加えて日本市場に担当者を置いているニュー・サウス・ウェールズ州政府観光局、クイーンズランド州政府観光局、ビクトリア州政府観光局、西オーストラリア州政府観光局、ノーザンテリトリー政府観光局、ケアンズ観光局、ゴールドコースト観光局の8団体にアンケートを実施。

 まず日本人旅行者数が2019年水準を回復する時期について、「2022年下期」「2023年上期」「2023年下期」「2024年以降」を選択肢として聞いた質問では、22年下期はゼロだったものの、23年上期は2団体、同下期も3団体となり、過半数が遅くとも23年末までの回復を予想した(下表参照)。

 例えば西オーストラリア州は2019年下期に全日空(NH)がパース線のデイリー運航を開始して大きく人数が増えていた経緯があり、現時点では来年上期と見るもののパース線が早期に復便すれば年内の完全回復もあり得ると期待している。

 また、座席供給量の回復見通しについても聞いたところ、人数と同様年内の回復を予想する団体はなかったが、4団体が23年上期と回答。次いで同下期が2団体、24年以降が2団体だった。

日本人旅行者数/座席数が2019年水準に戻ると予想するのは



旅行者数座席数
オーストラリア政府観光局2024年以降2024年以降
ニュー・サウス・ウェールズ州政府観光局2023年下期2023年上期
クイーンズランド州政府観光局2024年以降2023年下期
ビクトリア州政府観光局2024年以降2024年以降
西オーストラリア州政府観光局2023年上期2023年上期
ノーザンテリトリー政府観光局2023年上期2023年上期
ケアンズ観光局2023年下期2023年上期
ゴールドコースト観光局2023年下期2023年下期

日本市場向け予算も増加傾向、路線回復に期待

 オーストラリアでは7月から会計年度が新しくなるため、アンケートでは7月からの日本市場向け予算の増減についても質問。横ばいが決定しているのが2団体、未定が1団体となったが、それ以外は増額が決定または予想されている状況で、これからのリカバリー期において日本市場が引き続き重要視されていることが分かる。

2022年度(2022年7月~2023年6月)の日本市場向け予算は

状況
オーストラリア政府観光局増加決定
ニュー・サウス・ウェールズ州政府観光局未定
クイーンズランド州政府観光局増加予想
ビクトリア州政府観光局増加予想
西オーストラリア州政府観光局横ばい決定
ノーザンテリトリー政府観光局横ばい決定
ケアンズ観光局増加決定
ゴールドコースト観光局増加予想

 例えばクイーンズランド州では、州全体として今後3年間で2億豪ドル(約180億円)を国際線路線網の再構築に投じることを決めているが、日本でもこの予算の一部を受けて既存路線の需要増と新規路線の誘致に取り組んでいく方針。また西オーストラリア州も、路線再開が決まれば予算増額が見えている。

 さらにゴールドコーストでも、「日本マーケットはコロナ前の5年に渡って毎年訪問者数が増加したNo.3のマーケット」だったが、コロナ後の回復に向けて「さらに期待も位置づけも高く」なったとしている。


リカバリーに向けた取り組みでは、冒頭で触れた通りTAが大型のキャンペーンを開始しているほか、今年後半にはグローバルで新ブランドキャンペーンの立ち上げも予定している。

 また、ケアンズではすでにこの4月に観光大使を任命したほか、メタサーチや旅行ウェブメディアとのプロモーションも計画している。

 西オーストラリア州でも、これまでの直行便再開に向けた認知度維持・向上の施策に加えて、国境再開とともに商品の販売を再開した、または再開の意思のある旅行会社に対して販売促進策を準備。

 このほかクイーンズランド州は早期のFAMツアー実施が必須と回答し、年内に販売店を対象に積極的に開催していく方針を説明。ビクトリア州は「現時点ではまだ未定」としつつ、コロナ禍の2年でデスティネーションとしての求心力低下を解消していく必要があると指摘している。

 一方、一足先にリカバリーの予兆を回答したのはゴールドコーストで、コロナ禍でも「ロックダウンなどが他都市と比べ極端に短かったため、すでに国内需要が早い段階で戻ったことですでに観光素材がフルオープン」していることもあり、留学生やワーキングホリデーが戻りはじめているところ。今後は、SNSなどを通した情報発信や夏休み以降のキャンペーンに力を入れるほか、一人旅、旅慣れた富裕層、VFR、リピーター、添乗員付き小グループなどセグメントごとの需要喚起策も検討している。

コロナ禍や燃料価格高騰、円安など影響は

広大な土地を生かした多様な屋外アクティビティが揃うのもオーストラリアの特徴の一つ

 コロナ前後での変化について聞いた質問では、ノーザンテリトリーが「大自然のアトラクションや特別感のある施設でのノーザンテリトリーでしか体験できない新しい旅行スタイル」を提案し、日本市場での競争力向上を目指すと回答。同様にケアンズも、広い空間や大自然、直行便など感染症に対する安心感をアピールする方針だ。

 また西オーストラリア州は、ワイルドフラワーによるシニア層の取り込みや修学旅行、語学研修など従来の取り組みのほか、コロナとは無関係ながら燃油サーチャージの値上がりや円安傾向から、富裕層FITに対しパースやロットネスト島でのラグジュアリーホテルやグランピング施設の宿泊を具体的にイメージ可能なかたちで訴えていく方針を説明。なお、ハイバリュートラベラー(HVT)への取り組み強化は、TAやゴールドコーストも言及している。

 さらに、流通面でもクイーンズランド州はOTAとの取り組み強化を表明。またケアンズも流通チャネルの多様化や「B2C、B2B2Cの強化」が重要とし、この意図については「海外旅行に行く際に『ケアンズ&グレートバリアリーフ』が選択肢の候補に入っていない。消費者にストーリーや魅力を直接届ける必要性を感じている」と答えている。

最大の課題は入国手続き

ETAとDPDアプリ

 今後の課題については、やはり出入国の手続きなどの障壁を指摘する意見が多数。例えばビクトリア州は「日本帰国時の規制」としたほか、ケアンズも「英語のアプリのみ対応のETA(Electronic Travel Authority)、英語のアプリとWebのみ対応のDPD(Digital Passenger Declaration)など手続き面での日本語サポートの向上が必要」と回答した。

 このほか日本側の入国制限については、日本側の開国が遅れることで現地側からの期待も下がるとの危機感も聞かれた。また、これは以前からの課題だが、旅行業界側の知識向上を求める声もあった。

各地で開発続々、新プロダクトを追い風に

 コロナ後の回復に向けて期待の新プロダクトについては、各団体が活発な再開発を列挙しており、例えばゴールドコーストはゴールドコースト空港に新ターミナルがオープン予定であるなど「コロナ禍も多額の費用を投資してディスティネーション開発を継続」しているところ。

 同様に西オーストラリア州でも空港アクセス鉄道が完成したほか、ホテルも今年中に18年比で4000室増する計画だ。ホテルについては、ケアンズも1000室以上の増加を紹介したほか、ノーザンテリトリーでも「ラグジュアリーロッジやグランピングなど自然の中でのプライベート感ある宿泊施設」が増えているところで、今後増加すると見るFITや少人数グループにアピール。

 このほか、TAではサステナビリティや先住民族文化をテーマとした観光プロダクトにも力を入れていきたい考えを回答している。


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